「忠臣蔵論」というとあまりにも広すぎるが、
あくまでも「仮名手本忠臣蔵」をベースに、
歌舞伎や浄瑠璃、あるいは数々の外伝、
そしてそこから派生した現代の小説等を比較分析し、
「仮名手本忠臣蔵」の世界を立体的に浮かび上がらせた評論。
いま「立体的」と言ったが、
「仮名手本忠臣蔵」は文学であると同時に、
文楽や歌舞伎といった3次元芸術を前提としたものであり、
また描かれた世界も、徳川と足利の両時代をクロスオーバーさせ、
大星、加古川といったいくつもの家族や、
お軽や顔世をとりまく恋愛絡みのストーリーなど、
いくつもの線と面とで綿密に構成されたまさに「立体的な」作品であって、
それを適確に語ることに成功しているのが本書である。
文楽には文楽の、歌舞伎には歌舞伎の良さがあり、
内容と形式の両面に渡って、それぞれの「面白さ」を見事に表現しており、
読後に全段を鑑賞したくなること請け合いである。
幸い自分は浄瑠璃を学ぶことで、
未熟ながらも「演じる側」からの当作品へのアプローチが可能となっているわけだが、
この本を読むことで、演じる際の多くの示唆を得た気もする。