雪の研究で知られる著者による、
主に科学に関するエッセイ集。
ジャンルとしては師の寺田寅彦と被るが、
寺田が大局から柔らかく論じる形式であるのに対して、
中谷は最初からストレートに核心に迫る、という印象。
戦時中に書かれた作品も多く、
あの大戦下で科学者がどのような思考をしていたのか、
ということを探れるという意味でも興味深い。
科学関連のみならず、自身の体験や昔日の思い出などを語ったエッセイも収録されており、
たとえば『I駅の一夜』などは、
まるで幻想小説かのような艶めかしさや妖しさを含んでいるし、
加賀出身の著者であるだけに、
九谷焼や郷土料理について述べた作品も、独特の味わいがある。
科学者としても文筆家としても、
寺田寅彦の存在があまりにも大きすぎるため、
どうしても「二番手」になりがちな中谷宇吉郎ではあるが、
あらためて作品を読み返してみると、
なるほど、寺田にはない温度感のようなものが伝わってくる。