ファインマンによる、
1964年のコーネル大学での講演と、
その翌年のノーベル賞受賞講演の、
2つが収められている。
前者の方は、重力の法則から量子力学まで、
物理の世界の具体例を挙げながら、
既知の法則からいかにして新たな法則を導くか、
について、専門家以外にも分かり易いように語られている。
後者は量子電磁力学の専門的な内容を含むものだが、
我々は、ともすると科学者というものは、
何やらエクセレントな方法で新理論や法則を生み出すと思いがちだが、
実はそうではなく、
結論に至るまでには、何度も躓き、挫折し、
役立たずの中間成果物をたくさん産み出すものだということが、
ユーモアを交えながら正直に語られる。
どちらの講演からも学べることとしては、
物理に限らず、何事も、とにかく「考える」こと、
時には既知の情報を利用し、
また時には、仮説による当てずっぽうを繰り返しながらも、
真実を追究しようとする姿勢こそが大事なのだということ。
我々が本や報道から知ることができる科学の話は、
大部分が、「美化された」結果のみである。
その結果に辿り着くまでに、
科学者たちがいかに試行錯誤を繰り返すのか、
それを知ることができるだけでも読む価値はあるだろう。
個人的に印象に残ったのは、
物理の基礎法則が、一見異なる複数の形式で表現できる、
その一例が、シュレーディンガーの波動力学と、
ハイゼンベルクの行列力学だというくだり。
それ自体はよく言われていることなのではあるが、
この講演録で、「物理法則とはいかに導かれるものか」について知ったあとだと、
二つの形式がともに量子力学という共通の真理に到達していることの意味が、
よく分かってくるのである。