「地震学の父」と呼ばれ、
1916年のノーベル物理学賞候補にまでなった大森房吉。
僕は中学生の頃に、
地学の授業で「大森公式」を習い、
さらに高校(と大学)の大先輩だということを知って以来、
その名前を忘れたことはない。
けれどもこの本によれば、
大森先生は、現在では知名度が低いどころか、
「関東大震災を予知できなかった男」として頗る評判が悪いらしいのだ。
知名度が低いということと、評判が悪いということとは、
果たして矛盾しないのかという疑問がありつつも、
興味深い内容だったので一気に読み終えた。
この本の主旨としては、
関東大震災前からの、大森・今村両先生による地震予知論争を採り上げながら、
今では評判が悪いという大森先生のことを、
フォローするのが目的となっている。
正直、地震の予知については、
技術面ではもちろんだが、倫理面からも簡単ではないと思っており、
予知を当てた・外れたで、学者の本質が決まるものではない。
だから、大森房吉が関東大震災を予知していようがしなかろうが、
彼の業績に瑕がつくわけではないし、
なので、この本も彼の汚名返上を目的するならば、
あまり予知を当てた・外れたという面を、
クローズアップしすぎない方が良かったのでは、、というのが感想である。
ただ、大森房吉の死後、
彼の周囲で一気に彼に対する批判が高まったという事実からも、
おそらく彼は、
いわゆる学者タイプの人付き合いが苦手なタイプで、
知らず知らずのうちに敵を多く作ってしまったのだろうと思う。
今でも東大の地下では、
彼が作った地震計が計測を続けているそうで、
いつかそれを見に行きたいと思っている。