本書の内容を端的にまとめれば、
脳内で発せられる信号のズレと、
異なる慣性系(静止系)間の相違が、
時間感覚というものを引き起こすのだ、
というもの。
「増補版」として追加になったという量子についての考察は、
難解なのとやや唐突感があるのとで、
ちょっと本全体の主旨がボヤけてしまっている気がしないでもない。
ただ、「ゼノンの矢」のパラドックスを、
微分とか、既知の道具で解釈しようとするのではなく、
そもそも人間の脳による認識の仕方の問題とし、
そこから観察主観の問題を経て、
量子力学へとつながるのは当然といえば当然で、
要は、「ゼノンの矢」に含まれるとてつもなく深い問題を
再認識させてくれたという印象だ。
物理法則というものは、絶対的存在なのではなく、
もしかしたら人間の脳による解釈を受けた結果なのかもしれず、
分野をまたいだそのような研究が、
今後ますます必要になるであろう。