「私の戦後追想」(澁澤 龍彦)

僕が周期的に読みたくなる作家はそう多くはなく、
夏目漱石、寺田寅彦、内田百間、岡本綺堂、永井荷風、
そして澁澤龍彦ぐらい。

澁澤龍彦といえば、
何と言っても、古今東西、博覧強記、
あのディープな世界が魅力なのだが、

この本は、テーマを定めることなく、
身の回りを綴った軽いエッセイを集めた本。

皇居を壊して道路を通せばどれだけ便利か、とか、
明治政府以来政治家は田舎者なので東京をダメにしたとか、

現代の日和見作家たちにはない反骨精神を、
如何なく発揮している。

個人的に一番印象深かったのは、
著者がかつて住んでいた、鎌倉の東勝橋周辺のことを記した文章で、

澁澤がかつてそこに住んでいたとは知らず、
1~2年前に訪れて、

大通りから少し入っただけなのに、
急に中世になったような、
あの滑川辺りの独特な空気が、
やけに気になってはいたのだけれど、

澁澤の文章を読んで、
あそこには三島由紀夫、唐十郎、池田満寿夫、立原正秋といった大物たちの、
濃密なエネルギーがあったのだと知って、
感慨深いものがあった。