物理学の最前線にいる著者による、
「時間とは何か」を論じた本。
論旨は明快だ。
まずは相対性理論により、
ニュートン以来信じられていた「絶対的な時間」が、
存在しないことを示す。
次に量子力学の説明に移り、
・位置が決まると、速度が決まらない
・速度が決まると、位置が決まらない
という有名な性質は、順序を入れ替えると成立しない、
つまり量子変数の「非可換性」について述べ、
この順序の違いこそが、時間を生むのだ、と。
では、なぜこのような時間は、
過去から未来へと一方通行で流れるのか。
それは当然、宇宙誕生以来、
エントロピーが増大しているからなのだが、
著者はここで説明を終わらせない。
「ではなぜ、かつての宇宙はエントロピーが低かったのか」
と新たに問いかける。
僕が見事だと思ったのが、この問いに対する回答で、
要約するならば、
宇宙のエントロピーが低かったのは、
宇宙の絶対的な性質ではなく、
たまたま我々と関係のあった宇宙が、
そのような性質だっただけである、と。
我々は、アインシュタインによる相対性の概念を受け入れてはいるが、
一方で、宇宙という絶対的な存在があると信じてもいる。
しかし、著者の考えによれば、
宇宙の存在、そしてそこに働く物理の法則ですらも、
決して絶対的なものではなく、
あくまでも我々との「関係性」の中で生じているに過ぎない、
というわけだ。
そう考えるならば、
そのような「関係性」には多くのバージョンが存在するはずで、
そのうちの一つを我々の宇宙が選択しているのは、
何かしらの「確率」が関与していると考えられ、
その先には、相対性理論と量子力学との接点が、
何となく浮かび上がってはこないだろうか。
物理の基本式には、
不思議なことに時間の変数(t)は登場しない。
※登場していたとしても二乗の形をしており、
それはすなわち過去と未来の区別がないことを示す。
つまり、時間というものは、
我々が日常で感じているような「存在」なのではなく、
まさに著者が述べているような、
宇宙との関係性を表すものであり、
それを追究することで、
現代物理学の二大理論を統一する手掛かりになるのかもしれないと、
期待させてくれる。