主に我が国における、
江戸~現代にかけての「怪談」を紹介した本で、
中には、著者自身が体験したり、
他人から聞いたりしたものも含まれる。
現代社会における「怪談」の居場所は小さくなりつつあるが、
一応、「都市伝説」という形で存在はしているものの、
やはり、近代化以前の怪談と比べると、
その想像力というか、迫力が、まるで違う。
「怪談」を「奇妙な話」という意味に解釈すれば、
古くは『日本霊異記』から始まり、
数々の古典作品にそのような話は収められているものの、
やはり「怪談」の頂点は江戸時代なのではなかろうか。
なので、この本で、
『諸国百物語』『北国奇談巡杖記』『新著聞集』といった、
江戸期の良質な怪談本を紹介してくれているのは、
まことにありがたい。
逆に、現代版の怪談については、
どうもわざとらしいというか、
あきらかに創作臭がするのもあったりして、
まぁヒマつぶしにはなるという程度かな。
僕が一番ゾッとさせられたのは、
『諸国百物語』に収められている話で、
だいたいこんな話。
とある男が、妻以外の女と浮気をして、
それに嫉妬した妻が女を殺してしまった。
そうしたら、一方の肩に人面瘡ができてしまい、
続いて妻も死んだら、もう一方の肩にも同じく人面瘡が。
怖いのはここからで、
男が左を向くと、右の人面瘡が「こっちを向け」と言い、
右を向くと、左の人面瘡が「こっちを向け」と言い、
一度でも従わないと、耐えられないぐらい痛いので、
男は常に「むく(向く)」「むく(向く)」と言い続けている、
というお話。
実際は、その男の家に泊まった僧が、
奥の部屋から「むくむく、むくむく」という不気味な声がするのを、
不審がることから真相が暴かれるわけだが、
この「むく、むく」というのが、
単純な発語であるだけに、凄味がある。
そして両肩に、女の恨みの凝り固まった人面瘡があるのだから、
その不気味さの破壊力たるや、すさまじい。