岩波文庫版は完全収録ではないとのことで、
ちくま学芸文庫にて、
この偉大なる歴史書の全集を購入、
まずは後半4冊の列伝から読み始めることにした。
歴史書は、大きく分けると、
出来事を年代順に記述する「編年体」と、
人物の伝記によって記述する「紀伝体」に区分され、
後者はまさにこの『史記』が編み出した形式であり、
その「紀伝体」の中心をなすのが「列伝」である。
今更ここで言うまでもなく、
また当然原文で読んでいるわけではないけれども、
司馬遷の記述の微細にして雄大、
そしてドライな中に時折現れる詩的な感覚、
これは歴史書というよりも、
文学に近いというのが第一印象だった。
今回の「列伝一」の内容としては、
大国・秦と、それに対峙する周辺諸国との、
時に敵対し、時に和解する、
まさに食うか食われるかの駆け引きの中で、
各国の王を弁舌巧みに諭し説伏する、
賢者・智者たちの生き様を描いた、
十九の話からなっている。
たとえば「蘇秦列伝」では、
秦に対抗するために、
蘇秦が、周辺諸国に連合を組むように説いてまわるのだが、
通常の作品ならば、
「以下同様」で終わりそうなところを、
各国に同じように説いてまわるのを、
すべて克明に記しているのが、
読む側としては若干しんどかったけれども、
すべてを漏らさず記すべし、という、
著者の姿勢には感服せざるを得ない。
しかも、まるですべて見聞きしたかのように。
司馬遷の生来の才能はもちろんなのだろうが、
やはり、宮刑(男性機能を不全にする刑罰)に処され、
人生に対する絶望のどん底に落とされたことが、
この執念というか粘着というか気迫というか、
それらが、この著述に結実したのだと思う。
まだ最初の一冊を読んだだけではあるが、
この先が楽しみで仕方がない。