司馬遷 著「史記5 列伝一」(ちくま学芸文庫)

岩波文庫版は完全収録ではないとのことで、
ちくま学芸文庫にて、
この偉大なる歴史書の全集を購入、
まずは後半4冊の列伝から読み始めることにした。

歴史書は、大きく分けると、
出来事を年代順に記述する「編年体」と、
人物の伝記によって記述する「紀伝体」に区分され、

後者はまさにこの『史記』が編み出した形式であり、
その「紀伝体」の中心をなすのが「列伝」である。

今更ここで言うまでもなく、
また当然原文で読んでいるわけではないけれども、

司馬遷の記述の微細にして雄大、
そしてドライな中に時折現れる詩的な感覚、

これは歴史書というよりも、
文学に近いというのが第一印象だった。

今回の「列伝一」の内容としては、
大国・秦と、それに対峙する周辺諸国との、

時に敵対し、時に和解する、
まさに食うか食われるかの駆け引きの中で、

各国の王を弁舌巧みに諭し説伏する、
賢者・智者たちの生き様を描いた、
十九の話からなっている。

たとえば「蘇秦列伝」では、
秦に対抗するために、
蘇秦が、周辺諸国に連合を組むように説いてまわるのだが、

通常の作品ならば、
「以下同様」で終わりそうなところを、

各国に同じように説いてまわるのを、
すべて克明に記しているのが、
読む側としては若干しんどかったけれども、

すべてを漏らさず記すべし、という、
著者の姿勢には感服せざるを得ない。
しかも、まるですべて見聞きしたかのように。

司馬遷の生来の才能はもちろんなのだろうが、
やはり、宮刑(男性機能を不全にする刑罰)に処され、

人生に対する絶望のどん底に落とされたことが、
この執念というか粘着というか気迫というか、
それらが、この著述に結実したのだと思う。

まだ最初の一冊を読んだだけではあるが、
この先が楽しみで仕方がない。