まずは、私見から。
現代は幽霊や妖怪が住みづらい時代である、
とはよく言われるが、
しかし急速に近代化を進めた結果、
「近代的なもの」と「前時代的なもの」との、
歪みというかムラが生じてしまい、
そのムラこそが、逆に、
幽霊や妖怪の住処になっているとは言えないだろうか。
おそらくあと100年ぐらい経って、
キレイさっぱりと近代化が行き届いてしまえば、
その時こそはまさに、
幽霊や妖怪たちには退場いただかねばならないが、
少なからず「前時代的なもの」を残している現在は、
まだまだ彼らが活躍できる場は残されている。
ここでいう「前時代的のもの」とは、
具体的に言えば、歴史的遺物とか廃墟とか、
そしてそれらに纏わる記憶といったものになる。
例えば、ある場所があって、
「ここは江戸時代の刑場だった場所で、
そこにある祠はそれを鎮めるためのものだよ」
ということが人々に意識されている間は、
落武者の霊が(人々の脳内に)現れ得る、ということだ。
そういう意味で、この本は、
単に幽霊事件を紹介した本、というわけではない。
まさに上で述べたような、
土地に纏わる記憶や記録を下地にし、
その上に、現代の幽霊というレイヤーを重ねて見せている。
もちろん、その重ね方が強引なものもあれば、
事象自体が胡散臭いものもあるので、
すべてが成功しているとは言えないが、
時代を超えて人々の意識内の幽霊現象を探る、
というアプローチは、とても興味深く思った。
ただ一方で、
「お玉ヶ池」や「面影橋」など、
歴史考証部分に多くの頁を割く章も生じてしまうのも必然で、
そのあたりのバランスが、
いわゆる「オカルト本」だと思って手に取った読者には、
不満に感じられるのかもしれない。