新書という量的な制限がある中で、
これだけ明快に、かつ深く、
フーガに迫った書は、貴重。
そもそも対位法とは?
の説明から入り、
バッハ以前のフーガ、
そしてバッハのフーガの詳細、
バッハ以後のフーガの紹介を経て、
フーガとは何か、で締め括るという、
シンプルな構成ながら、
譜例も豊富で説明も分かりやすく、
フーガ入門書としては、
申し分ないだろう。
特に印象的だったのは、
孤高の音楽学者として、
理論書などは全く書かずに範を垂れ、
道を拓いた人は、
ヨハン・セバスチャン・バッハにほかならない。
フーガの深奥な技法を習得したいなら、
この人に問いかけねばならない。
と、フーガの巨匠を称賛した直後に、
そのフーガに対して、
なだらかな調性プランに基づき、
的確な力線の構図にそった模倣対位法様式での、
生きた旋律の音細胞(主唱)の自由な展開。
という定義を与えている部分。
毎日フーガを弾いている自分であっても、
「フーガを定義しなさい」と言われれば、
かなり難儀するし、
実際、理解すればするほど、
フーガの懐深さというか、
「形式を越えた何か」が、
そこにあるように思えてくるものだ。
しかし、
著者が掲げたこのフーガの定義は、
適確であるのはもちろん、
詩的というか、
心に響くものでもあり、
この部分だけでも、
この本を読んだ価値は十分にあった。
あと、バッハについて、
詳細な一章を割いてくれているのが、
自分的には助かった。
(まぁ、「フーガ」なのだから当たり前だけれども)