マルセル・ビッチ/ジャン・ボンフィス 著、「フーガ」(白水社・文庫クセジュ)
新書という量的な制限がある中で、
これだけ明快に、かつ深く、
フーガに迫った書は、貴重。

そもそも対位法とは?
の説明から入り、

バッハ以前のフーガ、
そしてバッハのフーガの詳細、

バッハ以後のフーガの紹介を経て、
フーガとは何か、で締め括るという、

シンプルな構成ながら、
譜例も豊富で説明も分かりやすく、
フーガ入門書としては、
申し分ないだろう。

特に印象的だったのは、

孤高の音楽学者として、
理論書などは全く書かずに範を垂れ、
道を拓いた人は、
ヨハン・セバスチャン・バッハにほかならない。
フーガの深奥な技法を習得したいなら、
この人に問いかけねばならない。

と、フーガの巨匠を称賛した直後に、
そのフーガに対して、

なだらかな調性プランに基づき、
的確な力線の構図にそった模倣対位法様式での、
生きた旋律の音細胞(主唱)の自由な展開。

という定義を与えている部分。

毎日フーガを弾いている自分であっても、
「フーガを定義しなさい」と言われれば、
かなり難儀するし、

実際、理解すればするほど、
フーガの懐深さというか、

「形式を越えた何か」が、
そこにあるように思えてくるものだ。

しかし、
著者が掲げたこのフーガの定義は、

適確であるのはもちろん、
詩的というか、
心に響くものでもあり、

この部分だけでも、
この本を読んだ価値は十分にあった。

あと、バッハについて、
詳細な一章を割いてくれているのが、
自分的には助かった。
(まぁ、「フーガ」なのだから当たり前だけれども)