実家が火葬場(落合葬場)の近くだったため、
少年の頃の日々の記憶の景色には、
あの薄汚れて威圧感のある、
煙突の姿が象徴のようにこびり付いている。
(現在では近代化が進み、煙突はなくなっているらしい)
小学校への通学時はもちろん、
近所で遊ぶにも、
常にあの煙突は視界に入っていたので、
それが別に嫌な感じとか、
人の死と結びついているとか、
そんなネガティブな感覚は、
当時もなかったように思う。
どのような感情を持とうとも、
火葬場というのは、
人生において切っても切り離せない「場」であり、
それについて系統立てて考察することは、
民俗学的な価値が十分にあるというか、
誰かがしなくてはならないことだろう。
その意味でも、
昭和58年に出版されたこの『火葬場』は、
唯一無二の名著であることは疑いない。
火葬場の歴史から始まり、
利用する側、住民側の心象にスポットを当て、
建築・施設としての検証や、
日本各地の、そして海外の火葬事情を紹介し、
そして最終章では、
「火葬場とは平和な時代であってこそ、
その使命を全うできる」
という、
ここまで極めて客観的に筆を進めてきた、
著者の主観が現れる。
単に知識やデータとして火葬場を捉えるだけではなく、
人の生があっての死であり、
人の死があっての生であり、
そしてその転換点にあるのが、
「火葬場」あるいは「火葬」という行為なのではないかと、
色々と考えさせてくれる、
間違いなく名著であった。