文字、特に漢字の、
歴史、意義、成り立ち、魅力、魔力…etc.
そういったあれこれの性質をテーマにした、
短編小説集。
おそらく中島敦の『文字禍』に、
インスパイアされたのだろうが、
はっきりいってこちらの『文字渦』は、
小説としてつまらない。
どちらかといえば駄作の部類だと思うし、
読み切るのは苦行以外の何モノでもなかった。
要は全編、「知識のひけらかし」で、
ストーリーや深みがまるでない。
この感覚、どこかであったな、、と思ったら、
小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』かな。
たしかあの小説内でも、
ストーリーと直接関係のない、
衒学的な内容が延々と語られる箇所があったが、
あちらはまだ、
それはあくまでも「オマケ」であって、
本筋のストーリーがちゃんとある。
けれどこの『文字渦』においては、
その衒学的ツラツラが、
すべてなのである。
一応、文字を生き物の化石に見立てたり、
紙上に散りばめられた漢字を、
地図の各地点になぞらえてみたり、
漢字をカードゲーム風にしてみたり、
あるいはブロックパズルにしてみたり、、
といった、
興味深い設定はあるにはあるのだが、
そこからストーリーが展開せずに、
断片的なエピソードと知識の羅列が続き、
もはや作者は、
その場の思いつきで書いているのではないか、と。
作者の漢字に対する知識と熱意は、
ハンパないのは十分に伝わってくるから、
無理に小説などにはせずに、
同じ内容を、別の形で文章にすれば、
まだ随分とマシだったとは思う。
久々に途中で投げ捨てたくなる本だった。