若かりし日に、
「ゾク議員」という言葉を初めて耳にしたとき、
咄嗟に思いついたのは、
「俗議員」という文字だった。
「低俗」はもちろんなのだが、
例えば「風俗」といえば、
エロ系の意味合いが強い(僕だけ?)ため、
「俗」という字には、
マイナス要素があるような感覚があり、
そこで、
「俗議員」という連想が働いたのだろう。
不甲斐ない政治家のニュースを見たときに、
そんなことを思い出したので、
あらためて「俗」という字について、
『諸橋大漢和』に問うてみた。
1.ならひ。ならはし。
⇒「風俗・風習」というぐらいだからね、
これは分かる。
2.のぞみ。
⇒これは正直意外だった。
中国の文献に、「俗、欲也。」とあるらしい。
字形が似てるし、
「俗」にも「ヨク」という音があるらしいので、
言われてみれば、たしかに納得。
3.つぐ。
⇒「俗者、続也。」
これは、ふーんというしかなく、
想像もつかなかった。
漢字の世界は奥深い。
4.世の常。なみ。凡庸。
5.いやしい。ひくい。
⇒4の方は想定どおりだけれども、
5の意味もあるのだな。
「雅」の対、とある。
となると、
「俗」にマイナスイメージをもっていたのは、
あながち間違いでもないということか。
さて、「ゾク議員」の正解は、
「俗議員」でも「賊議員」でもなく、
もちろん「族議員」なわけだが、
まずは手元の『広辞苑』(第三版。古い!)を引いてみると、
なんとびっくり、載っていない。
仕方ないので、
Google先生に駆け込んでみたところ、
下記の回答を得た。
ある特定の政策部門に関心と知識があり、
政策の立案と実施に強い影響力をもつ議員。
また、その議員グループ。
関係する省庁や業界と結託して動くこともある。
(『デジタル大辞泉』)
特定の政策分野について、
フォーマル、インフォーマルにかかわらず、
強力な影響力をもつ議員の俗称。
(『ブリタニカ国際大百科事典』)
それぞれの専門分野で権力を発揮する議員。
(『知恵蔵』)
むむ、どれもネガティブ感がないな。。。
中央省庁の政策決定と、
これに関係する業界の利益保護に、
強い影響力をもつ国会議員。
(中略)
族議員については、その専門的な知識、
人脈でのプラス評価よりも、
業界との癒着体質など、
マイナス面のほうが目だった。
(『日本大百科全書(ニッポニカ)』)
唯一これだけは、
長い説明の最後に、
「マイナス面のほうが目だった」
とあるものの、
この書きっぷりからすると、
そもそも「族議員」自体は、
必ずしも蔑称だったわけではなく、
こうした議員たちの横行が目立つようになった結果、
後からマイナスイメージが付いたということか。
なるほど。
言葉と実態の関係を表すサンプルとして、
なかなか興味深い。
ここで終わりにしてもよかったのだが、
念の為、「族」についても、
諸橋先生にヘルプをお願いしてみた。
あまりにも多義なので、
ここでは紹介しないが、
ネガティブな意味はひとつもなかった、
ということだけは報告しておこう。
ただちょっと面白かったのは、
11番目の意味として、
なみ。普通。雑多。
というのがあり、
これが「俗」の第四義と、
ほぼイコールであること。
ダラダラと書いてしまったが、
要するに、
漢字そのものが持つ意味があり、
それに抱く我々のイメージがあり、
そしてイメージに引きずられて意味は変わってゆく
という現象は、
当たり前といえばそれまでなのだけれど、
こういうことなのか、
と妙に納得した。