アガサ・クリスティー 作、「邪悪の家」(クリスティー文庫)

原題は「Peril at End House」だから、
「邪悪の家」という邦題は、

原題のニュアンスとも、
そしてもちろん作品の内容とも、
マッチしていない。

その作品の内容はと言うと、

とある家に暮らす若くて美しい女性が、
何者かに命を狙われていることを知った名探偵ポアロが、

その女性を巡る人間関係を紐解きながら、
悪戦苦闘の末、意外な真相を突き止める、
というもの。

読者には、
ポアロが整理した登場人物全員に関する、
動機や不審点をまとめたメモが提示されるが、

トリックはほとんどなく、
女主人公を巡る人間関係のみで展開する、
ザ・犯人探し、という感じ。

内容が人間関係に偏っているだけに、
残り20%ぐらいから、
今まで隠されていた人間関係が暴かれたりと、

読者としては、
「そんなん、分からねぇよ、
そりゃポアロも騙されるわけだわ」
と思ってしまうのももっともで、

しかも(この作家にしては珍しく)、
人物一人ひとりが、それほど魅力的じゃないというか、
あまり印象が残らないし、

事件の真相である「名前」の件にしても、
不自然な感じは否めない。

なんだろう、
ディテールまで計算され尽くした、
緻密なストーリーではあるが、

逆に、そうであるがゆえに、
かなり不自然な部分も目立ってしまい、

しかも人間の描写が命綱の作品なので、
その不自然さが一層際立ってしまった、

という感じだろうか。