科学において、
コンピュータによるシミュレーションは、
如何なる意味・意義を持つのか、
をテーマにした本。
身近な天気予報の話から始まり、
ブラックホール、ダークマター、インフレーション、
といった天体物理学へと敷衍していき、
最後は、我々の宇宙自体が、
何ものかによるシミュレーションかもしれないという、
「シミュレーション仮説」へと踏み込んでゆく。
実験とシミュレーションは何が違うのか、
シミュレーションによって、
我々は何か新しい知識を得ることができるのか、
現代のコンピュータ科学にまつわる疑問について、
専門家以外にも分かりやすく、
具体例豊富に解説してくれている。
コンピュータの中で、
ブラックホールをプログラミングしたところで、
それは本物のブラックホールを作ったこととは、
程遠いどころか、何の関係もない。
すなわち、
シミュレーションとは「再現」することではなく、
何かを理解するための「手段」である、
ということを、
著者は明確に語っている。
特にプログラミングのように、
自分の世界に没頭しがちなものは、
実はそれは手段であるのに、
それ自体が目的であると、
勘違いしてしまいがちだ。
それはシミュレーションのみならず、
通常のビジネスにおいても、
普通に起こり得ることであるので、
科学に興味がない人にとっても、
この本は一読の価値があるだろう。
シミュレーションとは、
想像であり、創造でもあるが、
それがゴールではないことを、
常に忘れるべきではない。