10代のある時期に、この足穂とか夢野久作とか、
教科書に出てくることはない「文学史のアウトサイダー」に
ハマっていたことがあった。
夢野久作の方は今読もうとすると、ちとheavyなのだけれども、
足穂は今でも気軽に読める。
そんな足穂の作品の中でも、
この「山ン本五郎左衛門只今退散仕る」は、
昔っからのお気に入りである。
大人になってからいろいろ調べてみると、
どうやらこの怪談は江戸時代の実話だそうで、
平田篤胤あたりが、必死になって調査していたとかいないとか。
大枠のあらすじでいうと、
古い屋敷に、毎晩お化けが出てきて、
想像を絶するような(中には笑ってしまうような)イタズラをするのだけれども、
主人公はちっとも怖がることはなく冷静に対処し、
お化けと人間の根気比べが延々と続く、といった内容だ。
とにかくお化けの「怖がらせ方」が新鮮(しかもしつこい)で、
こんなお化け屋敷を作ったらヒットするんではなかろうかと、
思わずそろばんをはじきたくなるぐらいである。
ただ西洋のゴーストとは違い、
ぞっとするのだけれどもどこかに愛嬌があるような、
そんな憎めない一面をもっているのは、日本のお化けならではだろう。
敢えて「お化け」と書いているのは、
その正体が幽霊だったか妖怪だったかを僕が忘れてしまったからで、
そういえば、民俗学的に幽霊と妖怪はどう違うかというのは、
ひと悶着起こるほど熱いテーマなのであり、
幽霊はヒトが化けたもの、妖怪はモノが化けたもの、
ときっぱりと言い切ったのは、
篤胤だったか柳田国男だったか(これまた失念してしまったが)、
とりあえず「幽霊」なのか「妖怪」なのかは、
そうそう気軽には区別はできないものなのである。
足穂はこの作品を映画化してみたかったらしいが、
おそらく未だに実現していないのであろう。
それこそ今流行りの3Dスクリーンで見てみたい気もするが。