よく知られているように、昔話というものには、
様々な要素がパーツとして組み込まれている。

例えば「桃太郎」にしてみても、

なぜ林檎ではなく桃なのか、なぜお供は犬・猿・雉なのか、
鬼が島とは何なのか、なぜ桃は山ではなく川で発見されたのか、

これらを解析することによって、
古代人の世界観のようなものが見えてくる。

ひとつひとつの材料に対する、アプローチの方法は多様であるが、
特に古代医術というものに焦点を当てたのが、本書である。

医術といっても大部分は薬学に近い。

桃太郎の桃、かぐや姫の竹、花さか爺の灰・・・
これらが古代ではどのような効能を期待されていたのか、を辿ることで、
各々の昔話に潜む通奏低音が聞こえてくるようになる。

一番印象深かったのは、「カチカチ山」。

狸に騙されて婆を食べるという行為から、
古代における食人習慣にまで言及している。

そもそも昔話で活躍する動物たちは、
すべて人間自身のことではなかったのか。

それを人間として語ることがあまりにも露骨であるから動物に置き換えたのだ、
という本書の説には説得力がある。