一見するとオカルト小説のようなタイトルだが、
現代を代表する科学者による科学エッセイ集である。
エッセイといっても難解な内容のものが多く、
一読する場合には、ドーキンスの理論やネオ・ダーウィニズムについて、
ひととおりの知識を持っておいた方がよいだろう。
そんな中でも、いくつかは読み易いものもあり、
論敵でもあり盟友でもあった、グールドとの逸話・書評や、
科学的根拠を無視した宗教の盲信と、それが生み出す悲劇への警鐘、
「うわべだけ科学的な」言葉を操る思想家への批判など、
時に驚くほど激しい文章で書き綴られたこれらエッセイは、
深い知識に裏付けられたドーキンスならではのものである。
思えば今年は、ドーキンスを読み返したことにより、
あらためて「科学的思考」の何たるかを考えさせられた一年でもあった。
そしてドーキンスの著作を読むたびに、ゴーギャンの、
「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」という作品と、
このタイトルとが、鮮明に頭をよぎる。
(ドーキンス自体は最近はこの語を使うのは好まないようだが)
人文分野にも「ミーム」という概念があって、
それがとりわけ絵画のような芸術の系譜にどのように見られるのかは、
非常に興味深いテーマでもある。
そういう意味で、ドーキンスを読んでゴーギャンを思うことは、
決して偶然ではない「根拠のある」行為であり、
科学と芸術とが行き着く究極の共通目的地のようなものが、
遠く見え隠れするのである。
ゲノムの解析によって、進化学は今後急激な進歩を遂げていくだろうが、
それでもドーキンスの考えは古臭くなることはなく、
むしろ新たな知識の礎となるに違いない。