酒好きが書いた酒の本というのはたくさんあるが、
この本ほど五感を刺激してくれるのは、
あまりないかもしれない。
読んでいるだけで、居酒屋の雑踏の中にいる感覚になり、
酒のにおいがぷーんと漂ってくるような、
かといって上からウンチクを押し付けるわけでもなく、
簡素にして味わい深い文章。
具体的な酒の銘柄などは特に書かれていないのだけれど、
それでもここまで語れるというのは、さすがは小説家だけあって、
酒を飲まない人であっても、読んでいて楽しくなるに違いない。
もちろん、この本を片手にグラスを傾ければ、
ますます酒がおいしくなることも間違いなし。
自分もいつかは、こういう酒呑みの境地に達してみたいものである。