この著者にとっては、
リアリティを欠いたものはすべて「幻想」に思えるようで、
ゆえにこの本は、「日本幻想文学史」というよりも、
「日本文学史」になってしまっている。
特に江戸以前の古典の物語なんて、
現代的な意味でのリアリズムを備えたものなどないのだから、
「幻想」の定義をしっかりしてから語り始めないと、
「古事記」も「日本書紀」も「源氏物語」も「太平記」も、
みんな全部、「幻想文学」にされてしまっている。
たとえ定義が曖昧であっても、
紹介された作品から、「幻想」の要素のようなものを抽出して、
それが文学史上、いかなる変遷をしてきたか、とかを追究するのならまだしも、
衒学的にあれやこれやと、多くの書物の名を連ねるだけで、
正直、内容は皆無に等しい。
しかも幻想文学といえば真っ先に名を挙げるべき、「雨月物語」は3~4行で済ます一方で、
佐藤春夫に何ページも割くという、不可解さ。
須永朝彦って、もう少しまともな文章書くイメージだったけど、
なんか、違った。