「酒縁歳時記」(佐々木 久子)

 

お酒を仲立ちとした、
人、料理、土地などとの「縁」を描いたエッセイ。

決して、酒自体のことを詳しく書いているわけではないし、
しかもそれが飲んだことのない銘柄にもかかわらず、

読むことでその味が舌の上に蘇るようで、
一流の文章とはこういうものかと、とても感心させられた。

男性の書き手だったら、もっと理屈っぽくなっていただろう。

女性で、しかも俳人でもあるこの作者であるからこそ、
鋭い感覚の中にロジックが見え隠れするような、
何ともいえない味わい深い文章になったのだと思う。

そして何よりも、日本酒が好きなのだということが、
ひしひしと伝わってくる。

日本酒のどこをどうやって楽しめばよいのか、
こればっかりは、同じく日本酒を愛飲する読者ではないと、
なかなか共感できない部分かもしれない。

味覚というのは、言語感覚と結びつけるのが難しい分、
「おふくろの味」というような、原初的な感覚と結びつきやすい。

その味覚の特性を存分に活かしながら、
懐かしい人や土地のことを語りつつ、

さらにそれを言語感覚とも共存させているのだから、
この文章は、やはり、すごい。

誰でも書けるようで、実に奥深い一冊だと思った。