百間先生が、相棒のヒマラヤ山系とともに、
鉄道で全国を無目的で旅するエッセイ風小説。
この「阿房列車」シリーズは、
鉄道マニアの間では聖典の如き扱いを受けていると、
以前どこかで聞いたことがある。
なるほど、ここに書かれている百間先生の旅には、
ことごとく目的がない。
それは単に長時間列車に揺られることで、
非現実の空間に浸りたいという、欲望むき出しの「移動」である。
そして列車の中も宿に着いてからも、
ひたすら酒を飲み、百間節が全開となる。
まぁだから、どの旅も「絵的」には同じ場面の繰り返しなわけだが、
でもそれぞれがきちんと、九州の旅だったり東北の旅だったり、
読み手を飽きさせないあたりが、さすがは百間先生。
金がないと言いながら、一等に乗ることにこだわったり、
旅先で突然床屋に行きたくなったり、
自分勝手で変人な百間ワールドは、
日本全国どこへ行っても変わらないのだということに、
ある意味感心させられる。
それにしても、無目的な鉄道の旅なんて、
最高の贅沢じゃないか。
まるで百間先生の向かいに座って、一所に旅をしている気分になりながら、
妄想上の贅沢を味わえるシリーズが、あと「第二」「第三」と残っている。
夏休み代わりに、ゆっくりと贅沢を感じてみたい。