聞いたことのない人もいるかもしれないけれど、
天文学でのみ用いられる「長さ」の単位に、
「パーセク」というのがある。
同じく長さを表す「光年」(光が1年間で進む距離)と比べてみると、
1パーセク=約3.26光年
となる。
ちょっと待った、
10進法でも12進法でもないし、
なんでこんな半端な単位を作ったのだろう、
そんなに変わらないのなら、
「光年」だけで十分じゃないか、
と思う人もいるはずで、
もっともな疑問である。
そもそも「光年」と「パーセク」は、
どちらも距離を表す単位でありながら、
そのベースは全く別物で、
たとえるならば「メートル」と「尺」みたいなもの。
「光年」(これも実は語感的に「距離」の単位だとは分かりづらい)が、
どのような単位であるかはよく知られているが、
では「パーセク」とはいかなる単位なのか。
ここで、
地球から星までの距離を測ることを考えてみよう。
何気ない問題だと思うが、
真剣に考えるとそうは簡単ではないことが分かる。
月のような至近距離の天体であれば、
月面に向けてレーザー光線を発射し、
それが跳ね返って戻ってくる時間を計れば、
そこまでの距離はすぐに分かる。
けれども、夜空にたくさんある星は遠すぎて、
そのような計測方法は使えない。
そこで登場するのが、
「年周視差」というもので、
これを使えば、
「そこそこ近い天体」までの距離を、
正確に求めることができる。
恒星は動かない星である。
けれども地球が太陽の周りを公転する、
つまりその星との相対的な位置関係を変えることで、
恒星が少しずつ動いているように見える。
地球が太陽に対してAという地点にいるときと、
そこから最も離れた、
太陽を中心としたちょうど反対側のBという地点にいるときとで、
その恒星がどれだけズレているかの角度を測る。
その角度のことを「年周視差」と呼んでいて、
角度が分かれば、
地球・太陽間の距離と三角関数を用いることで、
その恒星までの距離が求められる。
その角度(年周視差)が、
1度の3600分の1、つまり「1秒」であるとき、
その恒星までの距離を「1パーセク」である、
と定義したのである。
※まぁこの辺りの説明は、
なかなかピンとこないかもしれないが、
「年周視差」でググれば、
分かりやすい説明のページはいくらでも見つかる。
要するに、「パーセク」とは、
観測と三角関数により定義された単位であり、
光の速さを物差しとした「光年」とは、
まったく性格の異なるものだということは、
お分かりいただけたかと思う。
ところで、
秒速のことを「10m/s」のように書くとき、
「/s」は「per second」、
略して「per sec」(パーセク)と呼ぶこともあるので、
「パーセク」を速さの単位だと勘違いする人もいる。
(「光年」を時間の単位だと思うのと似ているかもしれない)
それについては有名なエピソードがある。
映画「スターウォーズ」シリーズの、
エピソード4(旧シリーズの1作目)で、
ファルコン号がオンボロなのを気にする、
ルーク・スカイウォーカーに向かって、
ハリソン・フォードが演じるハン・ソロ船長が、
「ファルコン号の最高速度は、
●●パーセクなんだから、心配するな!」
みたいな台詞を言うシーンがある。
SFファンの間では、このことは、
「パーセク」は距離の単位のはずのに、
どうやらジョージ・ルーカスは、
パーセクを速さの単位だと誤解していたらしい、
と評されているのであるが、
僕はそうではないと思う。
あの時代、
あれだけのSF映画を作ったジョージ・ルーカスが、
「パーセク」とは距離の単位である、
ということを知らなかったはずは、
絶対にあり得ない。
例のシーンでは、
おそらく、敢えてハン・ソロに、
「パーセク」を速さの単位として誤用させることで、
この船長の、ちょっと脳味噌が足りないが、
行動力はあるという性格を、
際立たせたかったのではないだろうか。
※ただその効果を発揮するためには、
鑑賞する側が「パーセク」が距離の単位であることを、
知っていることが前提となるため、
かなり高度な仕掛けではあるのだが。
日常生活では絶対に出会うことのない単位だけれども、
ちょっと覚えておくと、
少しだけ世界が広がるかもしれない。