出勤途中に渋谷を歩いていたら、とある飲食店の入り口に、
「つけざるカレーうどん」
というポスターが貼られていた。
耳慣れない言葉だけれども、
ポスターには写真も一緒だったので、
それが何なのかは理解できたのだが、
もしこの言葉を、会話の中で初めて耳にしたとしたら、
咄嗟に理解するのは難しいかったかもしれない。
というのも、「つけ」を「つける」の未然形と捉え、
「ざる」を否定の「ず」の連体形とし、
(「見ざる」「聞かざる」と同じ形)
「つけないカレーうどん」
と考えることもそれほど無理ではないからだ。
だが正しくは、「つけ」は「つける」の連用形が名詞化したもので、
そこに「ざる」という名詞をくっ付けて、
「つけざる」というひとつの言葉にしたものと思われる。
(「つけ麺」「かけそば」「もりそば」「焼きそば」と同じ)
語法的にはどちらも間違いではないが、
そもそも後者の方の「つけざる」という語は、
聞いたことがない言葉だったから、
余計に気になったのかもしれない。
「つけ麺」のついでに思ったのだが、
「イケメン」
の「イケ」は「イケてる」の語幹(活用しない部分)に、
男性を表す「メン」(なぜ複数形なのかは考えないようにしよう)が付いたもので、
同様の例として、「寒空」や「うれし泣き」などがあり、
語法的には正しい語である。
最近使われる似た語に、
「推しメン」
というのがあるが、
これは「推す」の連用形が名詞化したものに、
さらに名詞をくっ付けたもので、
語の構造としては「つけ麺」と同じであるが、
こちらの「メン」は「メンバー」の略であり、
敢えて同じような語を探すとすれば、
「冷やし中華」(「中華」は「中華そば」の略と考える)
などが挙げられるだろうが、
なぜかこれも麺類なのは不思議。
最後に、
「イクメン」
については、「育児するメン(男)」ということで、
「イク」は動詞が名詞化したものでも語感でもなく、
語の一部を採用したもの。
これは割と新しいタイプの言葉で、
他に例を探すのが苦労するが、
「神社が好きなガール」のことを「社ガール」と読んだりするのは、
このパターンにあたる。
とまぁ、「メン」に関する言葉のあれこれを考えてみたのだが、
こういうバラエティに富んだ現象が生じるのも、
日本語が膠着語であることに関係しており、
しかも我が国の言葉は、
漢語と西洋由来語をくっつけたり、
省略語や語幹をくっつけてみたりと、
ある意味「節操のない語法」を許容している面もあるわけだが、
それを楽しいと捉えるか、けしからんと感じるかは、
人それぞれの主観であって、
どちらが正しいというわけではない。