永井荷風の作品を、「明治・大正」「戦前」「戦後」「『断腸亭日乗』の世界」に4分類し、
それぞれに描かれた「東京」について解説付きで鑑賞するという、
一風変わったアンソロジー。
東京からかつての江戸が消えていくのを惜しむだけではなく、
実際に深川や玉の井に足を運び、
そこに残る江戸の名残を克明に描写するという荷風のスタイルは、
平成も終わろうとする現代に読んでみても、
決して古臭さを感じさせないのみならず、
むしろそのような歴史の上に成り立つ東京という都市の、
普段とは異なる一面を見せてくれるようで、新鮮ですらある。
個人的には、かつて津軽三味線を弾いていた頃、
東向島とか、白髭橋といった辺りにはよく演奏に行っていたので、
あの滔々たる隅田川の流れと、
一歩奥に入ったあの混みごみとした民家の密集具合を思い浮かべながら、
懐かしい気持ちで読むことができた。
それにしても、あらためてこうやって時系列で荷風の作品に接してみると、
空襲によってすべてを失った戦後の脱力感というか、虚無感というか、
かつてのあのギラギラとした荷風が見られなくなるのは、
読者としても寂しいかぎりである。