地球の歴史を「元素」という観点から語った本。
十代の頃から、物理・地学は好きだったものの、
化学は大嫌いだったわけだが、
この本で繰り返し出てくる元素記号を眺めているうちに、
だんだんと化学が好きになってきた。
ある意味、生物が生まれる前の初期の地球というのは、
化学の実験室のようなもので、
リンや炭素、酸素といった材料から、
生物が誕生するまでの流れは、まるで小説を読んでいるかのような、
スムーズさがある。
けれども、問題は生物が誕生してからの進化についてで、
この本では執拗にグールドの、
「進化の歴史を何度繰り返しても、決して同じようにはならない」
という説を批判しているわけだけれども、
グールドが既に故人になっていることを加味しなくても、
それは言い過ぎなのではないかと、個人的には考えている。
例えば、音楽を知らない人たちに、
音の要素について教えたするならば、
何十年、何百年という後に、
ソナタや協奏曲、交響曲というジャンルを生み出すことは可能だろう。
けれども、モーツァルトのト短調交響曲と「まったく同じ」曲が作られるかといえば、
おそらくそれはできない。
グールドによる「進化の偶然性」というのは、
おそらくそのレベルの話であって、
著書は「音があればシンフォニーが作られるのは必然である」と考えているのに対し、
グールドは「音があってもト短調交響曲は二度と作られない」と言っているわけで、
そもそも話の土台が違うのではないか、
というのが僕の考えだ。
なので、別にグールドがどうのこうのという話は関係なく、
純粋に著者による「地球の歴史は化学によって語られる」という立場を吟味すべきであって、
その意味では、十分読み応えのある一冊だったといえる。
いやむしろ、進化学や地球科学を目指す人にとっては、
必読の書ではなかろうか。