「星屑から生まれた世界 進化と元素をめぐる生命38億年史」(ベンジャミン・マクファーランド)

 

地球の歴史を「元素」という観点から語った本。

十代の頃から、物理・地学は好きだったものの、
化学は大嫌いだったわけだが、

この本で繰り返し出てくる元素記号を眺めているうちに、
だんだんと化学が好きになってきた。

ある意味、生物が生まれる前の初期の地球というのは、
化学の実験室のようなもので、

リンや炭素、酸素といった材料から、
生物が誕生するまでの流れは、まるで小説を読んでいるかのような、
スムーズさがある。

けれども、問題は生物が誕生してからの進化についてで、
この本では執拗にグールドの、

「進化の歴史を何度繰り返しても、決して同じようにはならない」

という説を批判しているわけだけれども、
グールドが既に故人になっていることを加味しなくても、
それは言い過ぎなのではないかと、個人的には考えている。

例えば、音楽を知らない人たちに、
音の要素について教えたするならば、

何十年、何百年という後に、
ソナタや協奏曲、交響曲というジャンルを生み出すことは可能だろう。

けれども、モーツァルトのト短調交響曲と「まったく同じ」曲が作られるかといえば、
おそらくそれはできない。

グールドによる「進化の偶然性」というのは、
おそらくそのレベルの話であって、

著書は「音があればシンフォニーが作られるのは必然である」と考えているのに対し、
グールドは「音があってもト短調交響曲は二度と作られない」と言っているわけで、

そもそも話の土台が違うのではないか、
というのが僕の考えだ。

なので、別にグールドがどうのこうのという話は関係なく、
純粋に著者による「地球の歴史は化学によって語られる」という立場を吟味すべきであって、
その意味では、十分読み応えのある一冊だったといえる。

いやむしろ、進化学や地球科学を目指す人にとっては、
必読の書ではなかろうか。