言わずと知れた連歌・和歌界の大御所、
二条良基による作品。
南朝方に京都を占領され、
北朝の後光厳天皇は美濃の小島(おじま)に逃れるが、
それに従った作者による、都から小島までの紀行文パートと、
足利義詮が都を奪還して還幸するまでの、
田舎での不便な生活を描いた日記文パートからなる。
作中の二か月余り、
作者は「瘧(おこり)」を患っており、
そこに「ししこらかす」という珍しい動詞が使われていることは、
別の記事で紹介したとおりである。
それからして『源氏物語』を意識していることは明白ではあるが、
たとえば、
・・・げに岩ほの中とても遁るまじげなる世の有様に、
折々聞え来る松の嵐の激しさも、
いづこを見えぬ山路と頼むべきならねば・・・
のような短いフレーズの中にさえも、
『古今和歌集』の古歌二首を織り込ませているように、
全編にわたる端麗な文章は、さすがである。
ただ、足利尊氏・義詮をやたらと美化している点が、
若干気にならないでもないが、
武士ではなく貴族として、
この激動の時代を生き抜かねばならぬ身としてみれば、
仕方ないことだったのであろう。
とにかく、ドライかつ格調の高い文章であり、
名人の筆になる書を見たときのように、
読みながら背筋を正したくなることを実感できるだろう。