「日本人とリズム感 ―『拍』をめぐる日本文化論―」(樋口 桂子)

一番の衝撃は「あとがき」に書かれた内容だった。

著者は大人になってからチェロを習い始めたそうで、
そのときに師事した先生のことが書かれていたわけだが、

最初は温厚だった先生が突然、
「あなたにはリズム感がない!」と怒り出し、
それからはひたすら数か月、間開放弦を弾くのみ。

その間もずっと怒鳴り散らし、
著者が体でリズムを取る様子を、
「気持ち悪い。薄気味悪い。恐怖すら感じる」と、
罵倒し続けたのだという。

著者曰く、そのときの経験が、
この本を書こうと思ったきっかけになったそうなのだが、

同じくチェロその他の楽器を弾く自分としては、
こんなアホ教師が今時いるのかと、
衝撃というかショックだったわけです。

それはさておき。

この本の内容を端的に説明すれば、

狩猟民族である西洋人と、農耕民族である日本人との間の、
言語、文学、音楽、絵画などにおける、
表現と感性の違いを語ったもの

ということになる。

特に日本文化は「中空」であることが特徴だとし、

例えば、アマテラス・ツクヨミ・スサノヲの三貴神において、
ツクヨミの活躍だけが『古事記』等に描かれない理由もそこにある、

というくだりなどは、成程と思った。

ただ、ここに書かれたすべての事柄が、
著者が主張するような「稲作におけるリズム」が起源だとするのも、
少し無理がある気もするし、

だとしたら、日本人以外の農耕民族においてはどうなのよ、
とツッコミをいれたくなるところもないわけではないが、

個々の話題の分析・考察においては、
かなり深いレベルに達していると思われ、

例えば「なつかし」という古語の説明や、
三味線と西洋楽器の違いなど、

僕個人の関心が高い分野においても、
十分に納得ができる内容だった。