新宿にある花園饅頭の、看板の広告文言である。
キャッチコピーとして、イイ線いっていると思う。
僕が気になったのは、
「日本一高い」という前半と、
「日本一うまい」という後半の2つのセンテンスが、
スペースだけを挟んで無造作に配置されている点である。
コピーとして成り立っている以上、
2つのセンテンスは、意味的に無関係ではないわけで、
真ん中のスペースには、
何かしらの「接続詞」を補うことが可能なはずである。
どんな接続詞が適切だろう、、と考えていたところ、
これが意外にも難問だということに気が付いた。
・可能性1:「そして」
2つのセンテンスを、等価とみなして並列させる。
日本一高い そして 日本一うまい
間違えではないのだが、
この広告のおもしろさを表現するには、不十分だろう。
・可能性2:「しかし」
この広告のおもしろさを表現するには、
前半と後半を逆接だととらえるのが、
まぁ普通だろう。
日本一高い しかし 日本一うまい
「高いの?じゃあ、買わねーよ」と、
一旦マイナスに向いた顧客心理に対し、
「だけど旨いんですよ!」ということで、
一発逆転を狙っているのである。
ここまでの考察なら普通なのだが、
僕が奇妙に感じたのは、まだ他にも候補があることだった。
・可能性3:「だから」
逆接が正解かと思いきや、実は順接でも意味が通じるのである。
日本一高い だから 日本一うまい
ただしこれが成り立つには、
「高いものは必ずうまい」という前提が必要となる。
饅頭業界で、それが常識なのかどうかは、僕には分からないが、
可能性としては、捨て切れない。
・可能性4:「なぜならば」
「AなぜならばB」という場合は、BがAの理由となっている。
日本一高い なぜならば 日本一うまい
可能性3が「高いからうまい」だったのに対し、
こちらは、「うまいから高い」という意味になる。
この場合も、「うまいから高い」というのは、必ずしも言い切れない。
安い店でも、うまいものが食える店はたくさんある。
ただし可能性3同様、
饅頭業界でどうなのかは、私には分からない。
だが、可能性は捨てきれない。
以上、ざっと見たように、この2つのセンテンスの間には、
まったく逆の意味をもつ接続詞でさえも、
挿入することが可能なのである。
これをもって、日本語は曖昧な言語だ、
などというのはナンセンスであって、
曖昧なのは言語ではなく、前提、この場合でいえば、
顧客心理や饅頭業界に対する知識なのであって、
逆にいえば、そのような曖昧な前提であっても、
十分に意味を伝え、機能する日本語というのは、
面白いものだと思う。
(注:これは別に日本語にかぎった話ではないが。)
とまぁ、こんなことまで考えさせられるのだから、
やっぱりこの広告は、優秀なんだろうな。