先日の風邪で、39度半ばまで体温が上がったときは、本当にしんどかった。

それぐらいの高温になるのは、初めてではないのだが、
今までは割と、昼間の時間帯や、朝起きてみたらそうだったということが多く、

今回のように、まさに寝るときになって、体温がピークになったことは、
あまり記憶にない。

「平家物語」の清盛の最期の場面では、
高熱に苦しむ清盛に水をかけたところ、たちどころに水が蒸発した、
というような描写があるが、それも大袈裟とはいえない、と思えたほどで、

たとえていうならば、水揚げされた魚の苦しさとでもいおうか、
真夏だというのに、羽毛ぶとんと毛布を重ねても寒さが抜けず、
しかし体は汗だくになり、

少しうとうとしたかと思うと、
世界中の怪奇・珍奇話を凝縮したような悪夢が襲ってくる、
「真夏の夜の夢」とはこれ如何に、

とかなんとか、回らぬ頭が死にもの狂いで駆け回っているようで、
思えば一晩をこんなに長く感じたことは、
これが初めてだったかもしれない。

さて、そんな体調も解熱剤のお蔭でほぼ安定したところで、
「風邪がぶり返す」という言葉の「ぶり」とはなんだろうかと、気になった。

辞典によれば、「ぶり返す」とは、
「元の悪い状態に戻ること。風邪がぶり返す。寒さがぶり返す。」とある。

それは、その通り。
しかし、肝心要の「ぶり」についての説明が、ない。

Webで調べてみると、同じような疑問をもった人が、質問コーナーなどに質問を寄せていたが、
それに対する回答が、「ぶり返す」は「振り返す」のこと、
などとドヤ顔で解説しているわけだが、それは明らかに間違いである。

日本語の濁音というのは、aboutなようでいて、実はそうではない。

「ふり(振り)」であるはずのものが、
何の理由もなく「ぶり」と発音されることは、まずありえない。

では、「ぶり」にはどのような解釈があり得るか。

ぶり

この日本語が意味するものは、下記の4つが考えられる。

1.魚の「ぶり(鰤)」。
2.「三日ぶり」「1年ぶり」「久しぶり」というように、程度や間隔を表す接尾辞。
3.「ふり」(振り・降りetc.)が、語頭ではない位置にくる場合。「どしゃ降り」「空振り」「ますらをぶり」。
4.「ゴリ押し」「ガリ痩せ」のように、擬音や擬態を表す。

言うまでもなく「1」「4」の可能性はないとして、「2」か「3」になるわけだが、
「2」にしても「3」にしても、「語頭」にくることは決してないわけで、
その意味で、「ぶり返す」は、異例なのである。

しかし、このままでは話が進まないので、
ひとつの解釈として、「ぶり返す」というのは、もともとは、「●●ぶり返す」という形で使われていたもので、
その「●●」の部分を一般化するために、欠落した、と考えることはできないだろうか。

その場合、「3」ではない。「2」だ。

例えば、10日前の状態に戻ることを、
「十日ぶり返す」と言っていた可能性はなかっただろうか。
(僕が知る限り、用例はないのだが。。)

同様に、「三日ぶり返す」「一年ぶり返す」・・・のような使い方をしていたが、
それらが一般化され、「前の状態に戻る」ことを、
「ぶり返す」と言うようになったというのは、考えられなくもないと思う。

繰り返すが、「ぶり返す」は、決して「振り返す」ではないと思う。
もしそうだとしたら、「振り返る」は「ぶり返る」となっていてもいいはずだ。

だから、「ぶり返す」は、清音⇒濁音の変化なのではなく、
もともと「ぶり」と発音されていた語なのであって、
そうすると、上述の1~3になるはずなのだ。

「ぶり返す」という言葉の意味が、「元の悪い状態に戻る」というふうに、
時間や期間を表現していることは明白なので、
上述の「2」に結びつけることは、自然だと思う。

だとすると、上で述べたように、数詞が省略されて一般化された、という解釈は、
あながち間違えではない気がしているのだが、どうだろうか。

※時間さえあって、文献や用例を補えば、
十分に国語学の論文たり得るテーマだと思うのだが、
それができないのは「返す返す」残念でならない。

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