前にこのブログで、「弦楽四重奏は人生の縮図だ」みたいなことを書いたことがあったが、
まさにそれをテーマにした映画。
「フーガ弦楽四重奏団」という架空のカルテットにおける、
メンバーの離脱、闘病、不倫、恋愛、音楽観の衝突、親子関係・・・etc.という事象が、
ベートーヴェンの傑作「Op.131」をベースに、描かれてゆく。
一番の見どころは、重病を患って引退を決意したチェリストが、
自らの演奏家人生にどのように幕を引くのか、という部分。
この映画は、考えられ得る限りでの、最高のシナリオを用意した。
紆余曲折ありながらも、最後の演奏会の幕が上がる。
演奏は順調に進むが、
最終楽章に入ったところで、チェロの手が止まる。
奏者がひとり、またひとり演奏をやめ、聴衆は茫然となる。
チェリストは静かに席をたち、
ステージの中央へと歩みを進め、このように語る。
「みなさん、私はもう衰えました。
いまの私に、このベートーヴェンを弾くことはできません。
この場で、新たなメンバーに席を譲ります」
そして登場した新メンバーにより、
最終楽章が演奏される・・・。
演奏家が、演奏途中で自らギブアップして、
そのキャリアを閉じるというのは、
まさに本望というものだろう。
当然、客席からも惜しみない拍手が送られる。
この映画を撮るには、
まさにこのOp.131がうってつけであっただろう。
荘厳なフーガで始まり、軽妙なロンド、
巧妙なヴァリエーションを経て、フィナーレへ。
そして何と言っても、この曲はアタッカで演奏しなくてはならない、
というのがポイントで、
映画の中でも語られているが、アタッカで弾くことにより、
途中での調弦が不可能となり、演奏者は緊張を強いられるのだ。
そして、老チェリストは体力が限界となる・・・。
そんなチェリストを演じたのは、
名優クリストファー・ウォーケン。
久々に、「眼で演技する」のを観た気がする。
彼の演技は鳥肌ものだ。
演奏家を題材とした映画は、数多くあるが、
その中でもこの作品は、出色の出来栄えだと思う。
最高の音楽をベースにしながら、
四人の人生ドラマを描いた傑作である。
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