
「読み応え」のあるミステリーといえば、
やはり、この作者。
本作は、『八つ墓村』のモデルともなった、
例の「津山三十人殺し」事件を、
題材としている。
あとがきで作者が語っている通り、
多くの人に誤解されている、
「津山三十人殺し」の、
悲しいともいえる真相に、
スポットを当てるのが主眼であるため、
下巻の大部分は、
実際の「津山三十人殺し」の、
記録・描写が占めており、
肝心の本作の、
ストーリーやトリックは、
やや手薄になっている感が、
正直否めない。
とはいえ、
クローズドサークルではないものの、
世間から孤立した、
「龍臥亭」という奇妙な建物を舞台とし、
惨劇に次ぐ惨劇が展開する物語は、
さすがに雰囲気が満点で、
今回は探偵・御手洗の推理もなく、
推理小説というよりも、
独特の雰囲気を味わう、
文芸作品だと思えば、
まずまず合格といったところか。
それにしても、
密室のトリックとか、
銃のトリックとかは、
さすがに特殊すぎて、
ちょっと反則な気もするが。