前半は、三味線の歴史や構造についての考察。
文献資料等も幅広く参照されていて、
これだけ読めば、楽器としての三味線の知識はほぼ網羅される。
(逆にいえば、これしか分かっていない、ともいえる。)
ジャンルを問わず、三味線を弾く人は必読の書だと思う。
後半は、終戦直後、東京芸大が出来た際に、
当初は邦楽科は設置されないということだったのだが、
筆者を含めた邦楽の教官たちが猛反対をし、
見事に設置させることに成功した経緯を、こと細かに記している。
今の我々からすると、
唯一の国立の芸術大学に邦楽科があるのは当たり前だと思ってしまうが、
当時は(今もかもしれないが)、
邦楽を大学で教えることの必要性を全く理解していない人が多く、
邦楽とは何ぞや、そして日本人の音楽観とは、
ということまでも考えさせられる、
実に深い内容となっている。
邦楽に根強く残る家元制度と、明治以来の洋楽偏重教育。
主にこの2つが、特に戦前のエリート教育を受けた人たちに対し、
洋楽>>>邦楽
という強烈な観念(洋楽コンプレックス)を植え付けたと言ってもよいだろう。
今でこそ、邦楽はだいぶ活気を取り戻しているようにも感じられるが、
果たしてどこまで真に理解されているかは、疑問である。
もの珍しい骨董品のように思われているかもしれないし、
長唄よりもシンフォニーの方が優れていると、
固く信じている人もいるかもしれない。
決してそんなことはないのだ、
ということを確信させてくれる内容にもなっている。