生殖行動については、よく、「ヒトは欲望のため、動物は種を残す本能のため」みたいな言い方がされるが、
前半については否定しないが、後半についても考え直す必要がありそうだ。
あるクモは、交尾が終わると、オスは「交尾栓」と呼ばれるいわゆる貞操帯のようなもので、
メスの生殖器にフタをしてしまうらしい。
このクモのメスは、子宮内に複数のオスの精子を蓄えることができるそうで、
オスがフタをすることにより、自分の精子が採用される可能性が高まるというわけだ。
ナショジオの記事によると、今回の研究で、この「交尾栓」が有効であることが実験で確認できたとのこと。
下等な動物ほど、個よりも種自体の存続を優先させそうな気もするのだが、
実際はその逆で、このクモに限らず、昆虫やそれ以下の生物においても、種よりも個を優先させることが、
生殖行動の基準になっているようなケースが数多くある。
それはともかく、このクモについて考えると、進化の面白い側面が見えてくる。
おそらく、最初はメスの方が、
より確実に子孫を残すため複数のオスの精子を蓄えられるように進化したのだろう。
だがそのうち、自分の精子が採用されなかった、
つまり自分の遺伝子を残すことができなかったオスの方が焦りだし、
メスの生殖器にフタをすることを思いついた。
オスとメスの思惑の違いもさることながら、
果たしてオスは、自分の精子が採用されないことがある、という事実をどうやって知ることができたのか。
そしてこの自分勝手というか嫉妬の思いが、
「交尾栓」という秘密兵器を使えるように進化をうながしたのだから、
虫の世界はやはり奥が深い。