マーラーの曲は、作曲家の特異な(むしろ「病的な」)個性と、
文化史上の特殊な背景との両要素が、
明確な形で内部で脈打っているという点でとても魅力的である。
音楽史上では、絵画史上においてエゴン・シーレがそうであるように、
未だに「異端」扱いされるマーラーではあるが、
それはなぜなのか、如何なる時代背景がそうさせたのか、
というテーマに迫ろうしたのが本書である。
型破りでありながらも、
シンフォニーという形式に拘ったマーラーの苦悩と矛盾。
そこまで踏み込むにはあきらかに頁数が足りないのだけれども、
それでも、個人と時代という視点から音楽を分析しようとする試み自体は、
有意義なことに違いない。