東京について語った本は数多あれど、
大抵は、江戸と現在を比較した程度のものであり、
縄文時代の海岸線を基準として、
東京の街を見つめ直すという試みは、
この本が初めてなのではないだろうか。
さすがは、中沢新一である。
縄文時代、東京の東側の大部分は、海の底だった。
その海岸線に沿って、貝塚や古墳といった、
「死のエネルギー」を蓄えた場所が築かれ、
それが現代にも脈々と息づいている、
というのが、この本の主旨だ。
新宿や渋谷のエネルギーはどこからくるのか。
上野や浅草が、他の繁華街とは異質に感じるのはなぜなのか。
これらはすべて、東京の地下に眠る、洪積層がカギを握っている。
単なる考古学や歴史の知識からではなく、
縄文の湿地のジメジメとした感じが伝わってくるような、
どことなく淫靡で艶めかしい感覚のする、
魅力的な文章で綴られてゆくのも、この本の特徴である。
浮世絵においては、金魚とセックスが同じ役割をしているとか、
青山界隈は、シャグジ神の支配地だった、など、
ちょっと強引に結論している部分もあるにはあるが、
ひと味違った東京論として、一読する価値はあるだろう。