「なんにもない 無の物理学」(フランク・クロース)
原題は、「The Void」。

「void」という語は、虚無を表すのにぴったりな語感だと思うのだが、
それを活かさずに、回りくどい邦題を付けてしまったのは、
ちょっと残念か。

それはさておき、
古代ギリシャから始まった「真空」に対する認識が、
どのように変遷し、そして最新の科学ではどのように理解されているのか・・・
というのがこの本の主旨。

真空を理解するにはエーテルに言及することは避けて通れず、
エーテルを理解するには、ニュートン・マックスウェル・アインシュタインといった「物理の王道」にも一通り触れなくてはならない。

そして仕上げは、量子論からヒッグス場の話となり、
最後のおまけに超ひも理論。

これ一冊でまさに「物理学の時空」を一気に旅させてくれる。

少なくとも現代の科学においては、
真空なるものは存在しなくなった。
「なんにもない空間」に恐れおののく必要はなくなった。

そこでは必ずエネルギーが揺らいでおり、
「何が起きてもよいスタンバイOKな状態」なわけだ。

しかしそんな安心も束の間、我々は例の如くあの疑問、
「じゃあそのエネルギーは誰が創ったの?」という根本的な問いにぶつかることになる。

今後おそらく、量子物理の分野では様々な発見が相次ぐだろうけれど、
「じゃあ最初はどうだったの?」という疑問は永久につきまとうだろう。

万が一その疑問がキレイになくなったときは、
今度は宗教や哲学の地位が危うくなるだろう。

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