「物理パラドックスを解く」(ジム・アル=カリーリ)

 

パリへ向かう飛行機で、ふと下を見下ろすと、
ウラル山脈のあたり、一面の荒野に巨大な湖が散在するという、
光景がそこにあった。

高度と湖の見た目から想像するに、
かなり巨大な湖に違いない。
しかもひとつではなく、いくつもある。

別に美しい景色というわけでは決してないのだが、
隕石なのか火山なのか、その原因はわからないが、
そのような雄大な地形を生み出す、地球の科学というものを、
あらためて考えされられた。

特に僕は専門家ではないので、普段の生活の中で、
科学のことについてじっくり考える時間は、ほとんどない。
(入浴中か晩酌中ぐらいだ)

でも飛行機の上なら話は別だ。
時間はたっぷりある(12時間)。
他にすることもない。

だからここぞとばかりに買い込んだ本を目いっぱいカバンにつめて、
アインシュタインやシュレーディンガーが行ったであろう、
思考実験を再現しながら、あれやこれやと考える。

贅沢な時間である。

というわけで、
機内で6時間ほどぶっ続けで読破したのが、この本。

ゼノンのパラドックス、オルバースのパラドックス、双子のパラドックス、シュレーディンガーの猫、フェルミのパラドックス・・・etc.

題材的には、いまさら、、というものばかりなのだが、
ひとつひとつの解説の中に、
最新の学説などを織り交ぜながら進んでいくので、
これがなかなか、読み物として面白い。

特にオルヴァースのパラドックスについては、
かなりわかりやすく、

いままで読んだ解説本の著者たちは、
本当は理解していないのでは??

と思わせるほどだった。

ただひとつ不満をあげるとすれば、
正攻法では説明が難しいいくつかの問題を

量子力学の「マルチヴァース」で片づけてしまっていること。

確かにマルチヴァースという存在を認めることで、
この世の中はキレイに説明できることが増えるのであるが、

しかし存在を証明するのがほぼ不可能である以上、
あまり堂々とそこに救いを求めるのは、
褒められるものではないと思っている。

ただ、「自由意志」の存在についてを取り上げるあたり、
この著者はかなり鋭い視点を持っていると思う。

これはもはや物理の領域ではないのだが、
脳における意識(意志)と行動の関係については、
まだまだ不明な点が多く、

この問題が解決すると、
それこそ科学史における大発見になろうことは、
間違いない。

それを物理と絡めて語られたのを見たのは初めてだったので、
それだけでも、この本を読んだ意義はあった。

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