黒岩涙香、などといっても知らない人が多いかもしれないが、
明治時代の作家で、夏目漱石よりも五歳年上である。

海外作家の作品の翻訳・翻案を得意としており、
「幽霊塔」は、英国のウィリアムソンの小説を翻案した推理小説。

涙香に心酔した江戸川乱歩が、これをさらに翻案して、
「幽霊塔」、そして少年向けに「時計塔の秘密」を書いている。

「時計塔の秘密」は僕も小学生のときに読んだので、
懐かしい気持ちもしながら、
この日本版オリジナルの「幽霊塔」を読んでみることにした。

いやぁ、これは面白い。

探偵・推理小説としてよく出来ているのは勿論のこと、
ヒロインをめぐる人間関係と、
その心理の機微が絶妙に描かれており、

大袈裟かもしれないが、
まるで漱石の小説を読んでいるかのような錯覚に陥る。

謎解きや冒険要素に、多少の猟奇性を加え、
さらにそこに恋愛模様も展開されるという、
何とも豪華かつドラマチックな内容で、
現代の我々でも十分に楽しめる作品だ。

こういう作品こそは、オペラの原作としてはぴったりなのだが、
ないものねだりをしても仕方があるまい。

英国版の原作が優れているのかもしれないが、
そうであっても、涙香の小説家としての手腕は、
もっと敬せられて然るべきだろう。

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