「江戸食べもの誌」(興津 要)

「江戸食べもの誌」(興津 要)

「江戸食べもの誌」(興津 要)

 

この本、古本屋でタダ同然の値段で買ったのだが、
同じ本が二冊並んでいて、

ハテ、どちらにするかな、と思って双方手に取ってみると、
一方には、表紙を開いたところに何やら書き込みがしてある。

「喜多八さま 興津要」

著者のサインだ。ご丁寧に落款まで押してある。

「喜多八」というのは、人なのか店なのかよく分からないけれども、
わざわざサインまでもらった本を売るとは、けしからん奴がいるものだ。

余程カネに困っていたのかもしれないが、
文庫本の売値なぞたかが知れているし、
ましてやタダ同然で売られているぐらいだから、
元・所有者もタダ同然の金額しか手にしていないのだろう。

それでも売ったからには、何かしらの事情があったに違いない。
その事情が何であるかはもはや知る術もないが、
ともかく、この「いわく付き」の方を買うことにした。

本の内容は、江戸庶民の食べ物、いわば「江戸のB級グルメ」を紹介したものである。

すべてに、小咄や川柳などの庶民文芸での使用例が掲載されているので、
内容がイキイキとリアルに伝わってくる。

中でも傑作だった河豚(フグ)の小咄を紹介しよう。
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ある男が河豚を買ってきて台所で捌いていると、
猫が一切れを咥えて逃げていった。

男が怒って猫を追いかけようとすると、それを見ていた別の男が、

「いやいや、ちょっと待て。
河豚には毒があるやもしれぬから、
猫が食べて無事かどうかを見届ければ、よいじゃろう」

男は成程、とうなづき、猫の逃げた先をそっと覗いてみると、
数匹が顔を寄せて集まっている。

これは猫も無事なので、どうやら毒などないらしいと、
近所の者も呼んで、酒を飲みながら河豚を食べてのドンチャン騒ぎ。

それを外で聞いていた猫たちが、
「こいつらが何ともないようなので、どうやら毒はないらしい」
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とまぁ、こんな感じで。

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