「楽器産業」(檜山 陸郎)

 

音楽に関する本というのは、
とかく感傷的・主観的になりがちなのだけれど、
この本のように、数字をベースにクールに語られる音楽も悪くない。

当たり前のことだが、
楽器なしでは音楽は成り立たず、

では楽器はどうやって生まれるのかといえば、
木の葉や竹で笛を作る時代はとうにすぎ、
今や立派な「産業」として、音楽を支えているのである。

であれば、ましてや僕のような音楽をする人間であれば、
その「楽器産業」の実態を知っておくのも悪くはあるまい、
ということでこの本を手にしてみた。

とにかく、目から鱗である。

我が国が世界の楽器産業の堂々たる中心であることは、
日本人であればもっと誇っていい。

特に、文明開化間もない頃からの、
鈴木(ヴァイオリン)と山葉(オルガン)の楽器作りにかける情熱については、
読み物としても楽しい。

こんな話も書かれている。

昭和30年代に入り、我が国のヴァイオリン業界が振るわなくなった理由として、

ヴァイオリンの教師が生徒に楽器店を紹介し、
生徒がそこで買うと、教師は楽器店からバックマージンが入るわけだが、
この時代から、そのバックマージンが安いと言い出す教師が増え始め、
楽器店がやる気を失くしてしまった、

ということを第一の理由として挙げるあたり、
個人的に思い当たる節があったこともあり(ヴァイオリンではないが)、
思わず吹き出してしまった。

また、ラテン楽器のマラカスについてのジョークを紹介していて、

マラカスの実の中にはクカラチャ(ゴキブリ)が巣食っていて、
ゴキブリが実を食い尽くすうちに、外側の皮がカチカチに乾燥し、
ゴキブリも実の中で乾いて死んでしまう。
だから、マラカスを振ると、種子とゴキブリの死骸がぶつかり合って、
何ともイイ音が出るのだ・・・

とまぁ、こんな話もあったり、
楽器に関するエピソードも満載なので、
楽器をやる人には、ぜひとも読んでいただきたい一冊である。

ただ、ピアノやギターについてはかなりページ数を割いているのに、
弦楽器、特にヴァイオリン族については、ヴァイオリンにしか触れておらず、
ヴィオラとチェロが少し気の毒ではあった。