「流れといのち──万物の進化を支配するコンストラクタル法則」(エイドリアン・ベジャン)

生物、無生物を問わず、
世の中のあらゆる事象は、物理で説明できますよ、
というのがこの本の趣旨。

「あらゆる事象」というのが言い過ぎだとすれば、
著者が熱力学を専門としていること、
また、本書のタイトルからも分かるとおり、

世の中における「流れ」、
例えば、河川の流れや乗り物によるエネルギーの流れなど、

それらにはルールがあり、
そのルールとは即ち物理法則に従うものだ、と。

素人としての意見を述べさせてもらうならば、
この本の内容は、一部の事象については正しいのであろうが、
それを一般化することは難しいのではないか、ということ。

著者は、河川の流れや選挙立候補者の支持率など、
物理から遠い事例を挙げ、
それらが実は物理法則に則っていることを示しているわけだが、

それはあくまでも帰納法の片道しか示していないわけで、
法則として一般化するために、
純粋な科学であれば踏まれるであろう手続きが、

おそらく物理からはかけ離れている(日常的な)現象ということで、
疎かになっているのである。

また著者は、生物の進化すらも物理で説明できるとしているが、
進化に欠かせない要素である「偶然」、
つまり「突然変異」については明確に言及しておらず、

要するに著者が述べている内容は、
まさに「ラプラスの悪魔」的予測範囲内の事象のみであり、

そこには意外性も発見もなく、
「はい、そうですよね」としか言いようがない。

ポピュラーサイエンスという枠組みの中では、
読む価値がないわけではないが、
創造的視点からすれば、かなり不満な一冊。