「知られざる北斎」(神山 典士)

ちょっと一風変わった葛飾北斎論。

何が変わっているかというと、
これは北斎の作品論でも人物評でもなく、
「北斎を北斎たらしめたあれこれ」についての著作だということ。

具体的には、

北斎ブームをプロデュースしたともいえる林忠正についてと、
最晩年の北斎を支えた高井鴻山、
そして現代における小布施やすみだでの北斎に対する思い、

これらを、著者自身が足を運んでの調査やインタビューを交えながら、
熱く生々しく語られている。

北斎といえば、
国際的にも名の知れた天才であるわけで、

我々は彼の作品は当然ながら、
その人物や言動を追いかけがちであるが、

ではなぜ、北斎の評価が海外でここまで高いのか、
彼の死後、我が国の美術界ではどのように扱われてきたか、

については、専門家以外にはあまり知られていないと思われる。

本書はそうした、
「もうひとつの北斎」とも呼べる天才の側面に、
あらためてスポットを当てたという意味で、
意義深いものといえよう。

(ただ図版が1点もないのは、少し残念かな)

今年は葛飾北斎の170回忌ということで、
各美術館で企画展が催される。

美術館へ足を運ぶ前に是非この本を読めば、
また違った北斎に出会えることだろう。