中世日記紀行集
作者は『十六夜日記』で有名な、阿仏(または阿仏尼とも)。

十代後半の宮仕え時代に、
妻子ある男性と恋をして、フラれて、
出家して、傷心の旅に出て、という自伝的作品。

作者自身が自らの性格を、
「うちつけにものむつかしき心のくせになん」と書いているぐらい、

とにかく衝動的で、
いわゆる「めんどくさい」女性の典型。

男の側からしても、そういう性格に懲りたのか、
段々と通わなくなってしまい、
その辛さを忘れるために作者は突然出家をするわけなのだが、

出家してからも勤行に励むというわけでもなく、
自分は何て可哀想なのかしら、、と未練タラタラ。

そんなとき、とある親戚のつてで、
田舎にいけば物思いも忘れるから、
ということで遠路遙か浜松あたりに住むことになるのだが、
ほんの一ヶ月ほどで、都恋しさのあまり帰ってきてしまう。

そして最後は、

かかる蓬がそまに朽ち果つべき契りこそはと、
身をも世をも思ひ鎮むれど、
従はぬ心地なれば、又なり行かん果ていかが。

と、まぁ要するに、

自分の身も世の中も観念したのだけれども、
そんな理性に従わない感情なので、
今後どうなるのかしら、、と、

この後の激動の生活を暗示して閉じられている。

実際、この後彼女は藤原定家の子、為家に嫁ぎ、
冷泉家のゴタゴタに巻き込まれていくことになるのだけれども、
それはまた『十六夜日記』の記事にて。

短い作品ながらも、
作者の衝動ゆえに、起伏に満ちた作品となっており、

また女流作品ならではの内面の吐露や、紀行文的な要素、
そして作中の和歌もなかなかすぐれていて、
読み応えのある作品であるとは思う。