井上 ひさし 著「私家版 日本語文法」(新潮社)
もう今から40年も前の本になるが、
古いという感じは、ない。

井上ひさしという作家については、
ほとんど、というか、まったく知らないのだが、

著者本人も述べているように、
文法の素人(といっても文筆家である以上、完全な素人ではない)が、
文法について考えた本ということで、
興味を惹かれた。

所々、僕の理解力でも「ん?」と思える箇所が、
ないわけではないが、

なまじ専門家ではない分、
読者目線というか、

日常使う日本語の何気ない疑問について、
鋭く切り込んでいく姿勢が好感を持てる。

その内容としては、

「は」と「が」の違い、敬語、
漢字の必要性、句読点、ローマ字、
七五調、外来語、仮名遣い…

といった感じだ。

特に僕が感心したのは、
冒頭の形容詞について書かれた章で、
日本語には形容詞が少ないことを述べたあとで、

わたしは形容詞がすくなかったのは、
「互ひに心持がよくわかって居た」からではなくて、
たがいに腹の底が知れないからこそではなかったか

と推察し、さらにそこから、
「枕詞」の必要性・社会性へと展開する部分。

要するに、
形容詞が不足していたからこそ、和歌文学では、
物事を形容する「決まり事」が増えざるを得なかった、
ということを言いたいのだろうが、
なかなか核心を突いていると思った。

とまぁ、冒頭からこんな感じだったので、
最後まで一気に読んでしまった。