夜の侵入者

夜の侵入者

侵入せんとするものと、それに対するディフェンスとは、一種のイタチごっこである。

そしてなぜか、侵入への警戒度が高いものに限って、その害を被る可能性もまた高いというのも、事実である。

我が事務所でもそれが起きた。
夜遅く、一人で仕事をしていた時、奴は窓から侵入してきた。

そのシルエットと、ブーーンという鈍い羽音から、僕は咄嗟に蜂だと思った。
割とデカい。クマバチだ。
と思うやいなや、反射的に席を立ち、壁際の安全な位置まで避けて、動向をうかがった。

そう、僕は虫が大の苦手である。

奴は我がもの顔に、我ら社員のデスク上空を一回りした後、よりによって、僕の席の真上の電灯の枠に止まった。

夜の虫というのは、どうして灯りが好きなのだろうか。だったら昼間に活動すればいいじゃない…、と思いながら、
恐る恐る近づいて観察してみると、それは蜂ではなく、どうやら甲虫だった。

カミキリムシにしては、胴が短すぎる。Gか?という疑いもあったので、わざと大きな音をたてたり、電気を消したりつけたりしてみたが、反応しない。
Gならばその異常なまでの警戒さゆえ、少しでも異変を感じたら逃げるはずである。Gの可能性は消えた。

カナブンにしては小さい。全体が三角形っぽい。カメムシかなにかであろうか。

まぁ別に正体はなんでもよい。ただ奴がその場所にいる限りは、仕事などできぬ。
しかしいつまで待っても、まるで哲学者のように思慮深げに、じっと、動かない。

まさかこいつは人の事務所に眠りにきたのか…と思いつつ、観察を続けてみると、足の1本1本がS字カーブを描いていて、
それを時折、照れ隠しに頭を掻くような仕草で、ゴニョゴニュと動かしている。

む、何だかオモシロイやつかもしれない、とは思うものの、やはりその真下で仕事するのは御免蒙りたい。

今夜は諦めて帰ろうと、そっとデスクに戻って荷物をまとめようとしたそのときに、奴は動いた。

鈍い羽音とともに、飛び立ったかと思うと、ビビる自分を横目に、事務所の奥へと移動してゆく。
これをチャンスとばかりに、慌てて荷物をまとめ、消灯し、脱出。

なぜか念入りに鍵を閉めてホッとしたものの、思えば奴は一晩を事務所で明かすわけで、
明日の朝に再度対面せねばならないことは、自明の理。

殺虫剤を買って出社すべきか、いやそれには忍びない、では外に追い出すべきか、でもどうやって?

たかが虫一匹にここまで真剣にならなくてはならない自分が悲しいのだが、
世の中には、虫嫌いもいれば、虫好きもいる。でも圧倒的に虫嫌いの方が多いと思う。

哺乳類が爬虫類を嫌うのは、長い進化の歴史の中でそれなりの理由があるのだが、
人間が虫を毛嫌いするのには、どんな理由があるのだろうか。

虫を理由に納期を延ばしてくれるクライアントはいないだろうな…

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