昆虫の変態について

昆虫の変態について

最近、会社から家までの帰り道を、歩くようにしている。

昼間はまだセミが頑張っている外苑の杜も、夜になるとコオロギの合唱に代わる。

エンマコオロギだろうか。
意識して耳を傾けると、何百匹、いや何千匹が、かなり高いキーで一斉に鳴くので、
少し怖くなるときがある。

一匹であれば、音に起伏があるのだが、
これだけの斉奏になるとそれぞれの波が干渉を起こし、振幅ゼロの持続音になる。
どうもそれが、気分を不安定にさせるようだ。

セミもコオロギも、鳴く理由は求愛がメインなのだろうが、
これだけ多いと、選ぶ方の雌も大変だろうと思う。
しかしどこの世界でも、雄は基本、必死だ。

さて、セミもコオロギも、蛹の状態を経ないで成虫になる、いわゆる「不完全変態」を行う昆虫である。

セミは短命、などと言われるが、とんでもない。
彼らは幼虫時代を土の中で10年前後も謳歌する。

その寿命全体でみれば、昆虫の中でもかなり長寿の部類となる。
何も成虫の間だけが人生(?)ではない。

セミがなぜ、土の中にそこまで長期間潜伏するのかについては、
いろいろ理由が考えられるが、今回の主題とは離れるので、触れないでおく。

ご存知のとおり、セミの幼虫は成虫とは似ても似つかぬ外見であり、
しかも背中を割って成虫が羽化するという、まるで完全変態の昆虫のような生態を見せる。

一方、コオロギの方は、幼虫は成虫とほぼ同じ見た目であり、
それはまるで、爬虫類や哺乳類の成長を見るかのようである。

このように、不完全変態といっても一括りにできないのであり、
そもそも「不完全」変態という呼称自体が、「完全」変態に比べて劣っているような印象を受けるのだが、
果たしてそうなのだろうか。

まずは昆虫の変態についてまとめてみることにする。

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A.無変態(卵→→成虫)・・・シミ/ノミ

B.不完全変態(卵→→幼虫→→成虫)
B-1.幼虫と成虫の生態・外見が似ているもの・・・ゴキブリ/コオロギ
B-2.幼虫と成虫の生態・外見が異なるもの・・・セミ/トンボ

C.完全変態(卵→→幼虫→→蛹→→成虫)・・・チョウ/カブトムシ
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無変態の昆虫は、シミ・ノミの仲間だけであり、
昆虫の中でも最大勢力を誇る甲虫類は、完全変態を行う。

となると、C>B>Aの順に優れているのであり、
なるほど、Cが「完全」であり、Bが「不完全」であるという呼称にも、納得がいくかに思える。

しかし、疑問がある。
昆虫の祖先については謎であるが、最古の化石は3億5千万年以上前のものだ。
そして、既に1億5千万年前には、進化のピークに達したと言われている。
(どこからともなく現れて、進化の階段を一気に駆け上ったというのは、驚異的だ)

もし本当に上述の「C」のタイプが優勢なのであれば、
誕生してから現在までの間に、AやBのタイプは滅び、Cだけが生き残ってもよいのではないか。

爬虫類の歴史を考えてほしい。
昆虫よりも遅れて地球上に現れ、昆虫と同じように様々なタイプを送り出してきたが、
現生しているものに、それほどの多様性は見られない。

となると、昆虫がこれだけの長い期間、まったく異なるタイプの生態を維持しているということは、
どちらが完全or不完全、ということではなく、

考えられるあらゆるタイプを実験し尽し、
しかもすべてのタイプにおいて順応してしまっている

という驚くべき結果なのではないだろうか。
(ただし、「無変態」については、分が悪いのは明白だ)

蛹になってじっくり成虫になった方が、後々有利かもしれない。
いや、それよりも土の中で長い命を謳歌し、成虫になるのは子孫を残すための一瞬で構わない。
いや、そんな面倒は言っていられない。哺乳類のように、最初から成虫と同じでいいじゃないか。
いや、自分だけで成長するのはリスクなので、別の虫に寄生するのが最も効率的だ。
・・・・・
etc.

食生活、天敵、環境など、条件が異なれば、どのタイプが有利なのかも異なってくる。

昆虫が恐ろしいのは、どれかひとつのタイプに絞って進化したのではなく、
すべてのタイプでの進化を遂げたことだ。
これは驚くべき「貪欲さ」である。

以前、養老孟司先生が、酒の席で、笑いながらこう語ってくれた。

「キミね、人間が考えられるぐらいのことは、昆虫はみんなやってるんだよ」

外苑のコオロギを聴きながら、その意味がようやく分かった気がする。

昆虫というのは、地球上における進化の奇跡といってもよいだろう。

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