ドイツが生んだ最高のピアニストの一人、
ウィルヘルム・バックハウスの最後の録音が残っている。
死の1週間前、85歳の演奏。
まるで1ラウンドから打たれ続けたボクサーのように、
コンサートの途中で、ドクターストップがかかる。
プログラムの残りの、
ベートーヴェンのソナタを弾くのは、
とても無理だ。
しかしマエストロはそこで終わりはしなかった。
残された力を振り絞って、
彼の最後の録音を残すのである。
シューベルトの即興曲As-dur。
せめてこれだけはこの世に残しておきたいという思いの詰まった、
感動的な名演である。
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この映画は、シューベルトのこの曲をモチーフにして、
淡々と映像を積み重ねていく。
今年の始めに、
タイトルだけ見て何となく買ったDVD。
見る機会がなく、
でも今年買ったものは今年のうちに見ておこうと、
何気なく再生した。
ドイツ映画というだけで期待していなかったのだが、
まんまと裏切られた。
刑務所、ピアノ、友情、、、
なんて聞くと、いかにも陳腐になってしまうのがくやしいぐらい、
よくできた映画だと思う。
今年最後のブログ総決算は、
この映画について書くことで、終わりにしたい気分になった。
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それにしても、
久々に聴いたシューベルトの和音は、
温かいけれど、妙に寂しく感じた。
バックハウスの逸話のせいだろうか。
巨匠の没後、40年。
2009年が、終わる。